『モーツァルトに会いたい』― ピアノ曲でたどるモーツァルトの生涯

◆プログラムメモ

河野 美砂子

5歳から、死の年35歳までの作品を年を追って弾いてみたい、と考えましたが、ただ音楽史的に「年代を追う」だけでは、演奏会として音楽的には充実しにくいものです。あるいは、音楽的によくできた作品を弾きたい、と並べてみると、時期が重なってしまったり。   また、モーツァルトは、あらゆるジャンルの作品を残しましたが、時期によっては、オペラやシンフォニーに熱中し、ソロ作品を書いていない年代もあります。
このプログラムを組むのには、けっこう苦労しました。
◇アンダンテK.1a、アレグロK.1b、メヌエットK.2、アレグロ K.3
(1761年〜62年/5歳〜6歳)
・記念すべき、ケッヒェル番号1番を持つ愛らしい小品たち。
◇ロンドン音楽帳から K.15hh、K.15ii その他  (8歳〜9歳)
・数多く書かれた小品から、異なった特徴の曲を選んで弾きます。
◇モルトアレグロ K.72a ト長調   (14歳)
・有名な肖像画「ヴェローナのモーツァルト」の中で、チェンバロの前に広げられた楽譜がこの曲。楽譜は、現在、断片(35小節)しか残っていません。演奏会当日、ひょっとしたら、曲の続きを私が作曲して弾くかも?
◇アダージォ ヘ短調 ソナタK.280より  (19歳)
・後年の名曲「ピアノコンチェルトK.488イ長調」第2楽章冒頭のメロディとそっくり。とても深い曲です。
◇「私はランドール」の主題による12の変奏曲 K.354 変ホ長調  (22歳)
・たいへん充実した変奏曲。「私はランドール」は、ボーマルシェのオペラ「セヴィリヤの理髪師」の中のロマンス。あまり有名ではない変奏曲ですが、何年か前、モーツァルトの変奏曲を探している時に楽譜を読んでみて、よくできている曲にびっくりしました。後で知ったことですが、モーツァルト自身もこの曲を気に入っていて、何度も人前で演奏したそうです。
ただ、各変奏曲自体は非常に充実しているのですが、構成にほんの少し疑問あり……、と思って練習していたところ、現在私が使用している楽譜(ヘンレ原典版、ウィーン原典版)以外に、変奏曲の順序が異なった版もあるとこのこと。本番までに、曲の順序を試行錯誤することになりそう。
◇ソナタK.310イ短調  (22歳)
・言わずと知れた、モーツァルトピアノソナタの白眉。今回のプログラムは作曲年代順に演奏するのが基本ですが、この曲だけは、トリに。
◇ソナタK.330ハ長調  (27歳)
・「かつてモーツァルトが書いた最も愛らしいものの一つである。」(アルフレート・アインシュタイン)
◇ロンドK.485ニ長調  (30歳)
・個人的なことになりますが、私が幼いころ、生まれて初めて弾いたモーツァルトの作品。→ エッセイ
◇アダージォK.540ロ短調  (32歳)
・モーツァルトの数多い作品のなかで、唯一のロ短調の曲。
◇アイネクライネジーグ(小ジーグ)K.574ト長調  (33歳)
・モーツァルトが、ライプツィヒのトーマス教会(バッハが長年勤めていた教会)を訪れた際に書かれた、ポリフォニックな小品。
半音進行など、弾いていてぞくぞくします。
◇メヌエットK.355ニ長調  (33歳)
・上記の「アイネクライネジーグ」と、今回はペアで弾きます。トリオなしの小曲。小曲なのに、大胆な響きに魅せられます。
最後の何小節かが書かれていない未完の曲で、シュタートラーが補筆。でも、弾いてみると、そこに若干の違和感が。できれば、別ヴァージョンを私自身が作りたいのですが?
◇アンダンテ(自動オルガンのための)K.616ヘ長調  (1791年/35歳)
・鍵盤楽器のための曲としては、最後となる作品。ケッヒェル番号が626(「レクイエム」)までしかないのを思うと、感慨をおぼえます。
「妖精のような童話のお姫さまのダンスに伴奏する音楽」(アインシュタイン)
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