宿 題
河野 美砂子

 長野県戸隠での恒例行事、「お話と朗読と音楽の夕べ」は、今年でもう8回目になる。
 河合隼雄さんのお話、谷川俊太郎さんの詩の朗読、それに私のピアノ、という舞台。みずみずしい緑のこの季節、印象的なエピソードとともに、得がたい時間を過ごすことができた。
 この会は、編集者だった山田馨さんという人が、戸隠の喫茶店「ランプ」を世に広めよう、と考えたのがそもそもの始まり。山田さんが河合さんや谷川さんを巻き込んだ、という形で、今では、谷川さんは「戸隠ありったけ」という地元の会のCEO(会長)に就任するほどだ。
 今年は「木」がテーマで、「木とともに生きる」(河合)、「樹木昇天」他(谷川)、武満徹「雨の樹」など(河野)、充実した内容だった思う。
 2時間ほど皆がプロとしての仕事をした後、実はこの会独自の趣向があって、河合氏のフルート演奏、谷川氏は歌を披露。
 最近はお二人ともそれぞれに進歩のあと著しく、今回は、私も含めて三人が一緒に演奏できるよう、「宿題」(詞・谷川俊太郎、曲・谷川賢作)を私が編曲した。
 リハーサルではバッチリうまく行っていたこのトリオ。
 が、私のソロの間奏がややこしかったせいか、まず谷川さんが3番の入りをトチリかけ、続いて河合さんも路頭に迷い……これはなかなかの事件で、絶句する谷川さん、あわてる河合さんの姿は、通常そんなに見られるものでない。
 でも、さすが大人(たいじん)二人。普通のオジサンが二人してオロオロしたら目も当てられないが、そこはその存在感がモノを言うのであって、お客様には大ウケだ。
 来年に「宿題」は持ち越し、と谷川さんが最後に締めくくり、めでたく終わったのでした。
-京都新聞夕刊コラム「やわらかな耳」/06年7月21日掲載分−

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